第1章 ヒトのお産:2.サルのお産
私は学生の時、京都大学の今西錦司教授から文化人類学を学びました。先生は、「地球上に存在するすべての生物は、その周囲の環境に合わせて棲み分ける」という理論を講義されました。
当時、大変な感銘を受けた記憶があります。
いわゆる先進国が、今日のような少産少子化の時代を迎えるようになりますと、先生のお話が、人類への辛らつな警告であったのではないかと思っています。
先生の棲み分け理論で行きますと、日本では、お産が増えることは当分ないような予感がいたします。
また、人間に一番近いサルのお産の話も、今西先生から聞きました。最近、今西先生のお弟子で、京都大学霊長類研究所教授であり、また、産婦人科でもある大島先生が書かれた文章を目にしました。
大変よくまとめてありましたので、人間のお産を語る前に、その文章をお借りして、サルのお産をご紹介いたします。
【ニッポンザルのお産】
埼玉県長瀞公園で、2人のさいたま大学生が8mmカメラで撮影した記録。『通常動物は、的に襲われない夜間にお産を済ませてしまいますが、その時は、幸いなことに夕方から出産が始まった。1頭のメス猿が座り、両手を水平にあげて、体の上下運動を始めた。その動きは1~2分おきであった。手は交互に頻繁に出口部に持っていく。開口の具合や児の進行をチェックしているかに見える。出口部が膨らみ、それは、なんと赤ん坊ザルの顔面である。顔面位でも、猿には問題にならない。四足歩行の産道は真っ直ぐである。
手による、出口部のチェックが頻繁になる。やがて児の頭が出る。
母サルは、すばやく赤ん坊の首をつかんで、自分の前胸部に運ぶ、ねれた赤ん坊の体を、隅々までなめ回す。
なにかにとりつかれたように、その動きは激しい。
やがて、胎盤を引き出す。
西日はさらに傾き、周囲はなにごともなかったように、夜のとばりに閉ざされていく』
ここで、フィルムは終わるのである。
大島教授は、サルのお産の特徴として
①座産である。
②お産は夜中に終了する。
③母ザルは生まれた子をすぐ抱き、児ザルも母ザルの体毛をつかんでずり落ちることはない。
④生まれた児を必死になめまくる。
とまとめておられます。
人間のお産を説明する前に、ずいぶん長い前置きが続きましたが、少し記憶しておいてください。