1-1.イヌのお産にあやかりたい

 

第1章 ヒトのお産:1.イヌのお産にあやかりたい

 私の病院では、どこの病院にでも見られるような紙のカルテは、まったくありません。
 診療は、すべて電子カルテを使っています。
 医師は日本語で、症状、所見の記入、おくすりの処方箋、注射箋の発行、検査の指示などを、患者さんの目の前で、パソコンに入力します。
 患者さんが納得された上ですべての診療が行われるようにしております。
 もちろん要望があればカルテをお見せしたり、印刷してお渡しすることも可能です。最近厚生労働省も、そのような方針を打ち出したようです。
 コンピューターの中には、薬の情報集、患者さん向けの説明資料、医学辞書など診療に必要なほとんどの資料が入っています。机の上にあるのは、液晶ディスプレーとキーボードと電話だけです。
 電子カルテの中では、それぞれの妊婦さんの予定日をもとにした妊娠カレンダーをつくることができますので、健診の時に差し上げています。
 そのカレンダー妊娠5ヶ月の欄には「犬の日」が、イラストで示されています。「犬の日」に着帯する週間hあ、いつから始まったのかよくわかってはいません。欧米では行われていないのを理由に、日本でも着帯は不要とする考えもあります。
 しかし、暑い夏、薄着ですごす妊婦には、クーラーは冷えすぎています。一方、寒い冬、セントラルヒーティングの発達していない日本では、腹帯には妊婦のお腹を冷やさない効果があるのです。お腹を冷やすと、子宮が収縮することがわかっているので、狭い子宮の中で赤ちゃんは大変です。
 また、私達医師や妊婦さんご本人がいくら努力しても、妊婦に伴う合併症が発症することもあれば、障害を持った赤ちゃんが産まれることもあ

ります。安産を願う気持ちはみんな同じですが、人間には、この運命をどうすることも出来ません。最終的には、神様にお願いするほかなさそうです。
 日頃行くことのない神社にお参りして、イヌにあやかって安産であいますよう頭を垂れて祈り、着帯する風習は、宮中に限らず今でもなお大切にして良いのではないでしょうか。
 なぜ安産の代表とされるイヌのお産は楽なのでしょうか。少し説明いたしましょう。
 イヌのように、4本足で歩く哺乳動物を、四足(しそく)歩行動物と言います。2本足で歩くヒト以外の哺乳動物は、すべてこの四足歩行動物に分類されます。これらの動物は、野生で生活しているので、当然一人でお産をしなければなりません。
 いったん始まると身動きができないお産の最中に、てきから襲われる危険性は非常に高くなります。そこで彼らはお産をなるべく短時間に済まさなければなりません。

 ヒト以外の動物では、お産が楽に速やかに進むような仕組みが出来上がっているのですね。

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