第4章 座位分娩台スペースメール
3.LDR対応座位分娩台スペースメール・ラデレ
これは、一番新しいLDR 用スペースメールですが、この分娩台の特徴を一言で言えば、下肢を支える仕組みの違いです。
従来の分娩台が踵受けで踵を支えるか、膝の裏で支えるような仕組みになっているのに対し、スペースメールの違いは、マザーズハンドと呼ばれる、大腿受けで大腿を支えるようになっていることです。
子宮口が全改題するまでの分娩第一期は、産婦さんの好む体位で過ごすことが推奨されてきました。
ツインでは、分娩室に「ザ・シャワー」というシャワー設備があります。椅子に座れば、四方から、心地よい温度のシャワーが刺激をします。
裸になり心地よいシャワーをあびるのは、妊婦水泳同様、大変気持の良いリラックスを与えてくれます。
しかし、水中に産み落とすのは、胎児の衛生管理上問題があると思います。
一般的には、分娩第一期も、後半になると、産婦さんは痛みのために横たわる方を好むようになります。
座位分娩の利点を生かすためには、初めてのお産の方で子宮口の開きが7〜8㎝、2回目以降の方で、5〜6㎝位になると背板を起こして座位にするほうが良いと考えています。
その時期、胎児の児頭は、回旋しながら狭い骨盤を下降しています。
子宮口が完全に開いて居ませんので、産婦さんは自然に起こる陣痛の山を、静かに呼吸法で乗り切っています。
産婦さんは力を入れる必要はないので、ベッドの背板を起こし、リラックスしてゆったりと過ごすことが望まれます。
ただし、緊急時の対策のために、血管を確保して、腹部には胎児の状態管理のために、分娩監視装置を装着する必要があります。
子宮口が全開大(赤ちゃんの頭が通過できる広さ)しますと、分娩第二期、娩出期といいます。
児頭は、骨盤の奥深く下がって、周囲から圧迫を受けている時間ですが、胎児のモニターで異常がない限り、約2時間以内にこの時期が終了すれば問題はありません。
児の娩出には通常、自然に起こる子宮の収縮にあわせてイキミと呼ばれる産婦さん自身が腹圧をかけて動作を加えていきます。
「お産、分娩」という言葉からは「苦しそうな表情をして、汗だくで、力を入れている姿」を想像する人が多いと思います。
しかし、初めてのお産の方で、始まりから終わりまで平均14時間かかるお産の全経過からみますと、この分娩第二期は30分間です。そして、イキムのは、数回にしかすぎないのです。
一回のイキミに要する時間は、1分間ですから、みなさんが想像する汗いっぱいでイキンでいるお産は、せいぜい10分間の出来事だと言っても過言ではありません。また、胎児の心音さえ良好であれば、イキマなくてもお産はできます。
イキム場合は、私の病院では「グリップを握り、足を体に引き付けるようにイキミましょう」と説明しています。
従来の仰臥位分娩では「足を突っ張って、頭の上の握り棒を引き寄せるように」となるのですから、スペースメールでは、根本的に異なる説明をしているのです。
kのように、すばらしいLDR 用在分べん台スペースメールは、最初のスペースメール誕生から16年経って、2001年4月、全く新しいものに生まれ変わりました。
2000年4月に徳島市で開催された日本産婦人科学会で、その概要を発表し、スペースメールLDR(ラデレ)と名づけました。LDR対応の座位分娩台です。LDR(ラデレ)というのは、
L(ラ)・・・labor陣痛
D(デ)・・・delivery分娩
R (レ)・・・recovery回復
の三つの英単語の頭文字を取った造語です。
LDRによる分娩は、1970年代のアメリカで誕生したとされています。
当院では、1979年の開業以来このシステムで行っています。おそらく、日本で最も早いLDR分娩システムを取り入れた施設だと思います。最近では、夫や家族も立ち会う、アットホームな環境を持つことを強調する施設もあります。しかし、家族、特に子どもを入室させて行う分娩は、その子どもに、お産に対する恐怖の潜在意識をもたせてしまう危険性がないとは言えないので、私は反対です。
また、LDRに限らずアットホームな雰囲気、美しい分娩室、個室のプライバシーを保つことは大切なことで、LDRに限ったものではありません。
LDR本来の趣旨は、大切な陣痛の時期を分娩室同様整った医療環境の中で、一貫して行うということなのです。
スペースメール・ラデレを紹介する前に、従来のLDR用の分娩台について説明いたしましょう。LDR用分娩台は、長い陣痛期間を快適に過ごすための工夫が強調されており、幅が広く外観を重視しベッドとしての機能を優先しています。
しかし、幅が広いということは、足を載せる支持台の幅も広くなるので、産婦は足を開きにくく、また関節に負担となります。
解剖学的に見ると、これらの分娩台の大腿を支える構造が、産婦さんのまた関節には無理な形であることがわかります。
ベッドとしての機能を重視するあまり、分娩台としての機能を低下させているのが現状です。その点、今度渡しが作成したスペースメール・ラでレは、
(1)幅が広く安定性と住居性が高い。分娩第一期の時には、産婦さんが自由な体位をとることが出来る。
(2)下肢を支える(脚受け部)機能は、人間の胎盤大腿関節(股関節)の機能を分析して人間同様3つの回転軸を利用して回転させることに成功した。その結果、足を広げるとか、お腹のほうに引き付けるなど、下肢の動きを大変スムーズに行うことが出来るようになった。
(3)脚受け部の動きに連動して、お尻を受ける台(臀部受け)が動き、分娩第二期には、お尻に沿う形になり、お尻が安定し下のほうへずれない。
(4)産婦さんの意思で、イキミ時、砕石位から蹲踞(そんきょ)位(しゃがむ)に移行できる
(5)ベッドの下1/3の部分は、切り離すことができるようになっており、分娩直後で歩行が困難な産婦を、病室に移動するストレッチェーとして使用できる。
(6)また、分娩直後の新生児の処置台としても幅が広く最適で可能である。
などなど、スペースメール・ラデレには以上のような特徴があります。形は美しく、台は低い位置に下降でき、大腿受けが分娩台に自動的に収納されますので、産婦さんは、低い位置で正面から分娩台に座ることができます。
産婦さんが座ると、大腿受けは、自動的に上昇し足を分娩に適した砕石位に持って行きます。
イキム時は、足を自分の意思で胸の方に引き付けることができますので、しゃがむようなかっこうで座るようになります。
今までのスペースメールに比べて本当に楽で、美しく、理屈にあったお産ができるようになりました。