著者プロフィール

著者プロフィール

著者 医学博士 田淵 和久

昭和21年岡山市生まれ

学歴:昭和40年3月 岡山県立操山高校卒業、昭和46年3月岡山大学医学部

職歴:昭和46年4月 岡山大学産婦人科教室に入局し、岡山市民病院・高知県立中央病院・岡山大学・川崎医科大学付属川崎病院産婦人科勤務を経て、昭和54年3月田淵産婦人科医院開設

昭和61年12月 医療法人社団明和会理事長就任

昭和62年3月 医療法人ペリネイト母と子の病院を開設、院長に就任

平成10年3月 医療法人社団明和会ペリネイト母と子の病院と改称

【院長は宗教的理由(カトリック)で人工妊娠中絶は一切行ったいない】

 

専門:

周産期学、「胎児仮死における糖代謝」で学位授与、座位分娩台、産婦人科診療台、膣壁裂傷縫合用膣鏡など特許多数取得、硬膜外無痛分娩、鍼麻酔も得意。現在は、血液レオロジーの研究、医療器械の開発、座位分娩、無痛分娩の普及に努めている。

 

論文:

昭和52年10月 胎児低酸素症の病態生化学的検討 ー特に解糖系機能を中心にー

昭和60年 1月 新しい座位分娩台開発への道

平成 3年11月 座位分娩台「スペースメールED」による分娩の実際

平成 5年 8日 解剖学的分析からみた生理的座位分娩角度

平成 6年 6月 日本における座位分娩の実態

平成 6年11月 内診台の工夫

 

報道:読売新聞・山陽新聞・リビングおかやま・P.and・週刊現代・Fridayなど、多くの媒体で「座位分娩台」「4380の星がきらめくプラネタリウムの分娩室」など最新医療技術を駆使しながらも、「心」を大切にする「ペリネイト母と子の病院」の特徴を広く報道している。また、「マタニティスイミング」開始(昭和60年12月)に伴って、山陽新聞・西日本放送(RNC)・岡山放送(OHK)・NHK各社が取材、広く報道した。さらに、分娩台「スペーススパイラル」の披露、「音楽療法ブレスマック」導入、「電子カルテ」による診療開始などそれぞれの事象をとらえ、テレビ朝日(ABC)・関西テレビ(KTV)・日本テレビ(NNN)・山陽放送(RSK)など報道各社が取材、広く報道した。なお、平成4年NHK教育TV「育児カレンダー」でスペースメールが特集された。

(参考)分娩体位の変遷 2

(参考)分娩体位の変遷

2.分娩体位の具体的な変遷

 18世紀中期までの分娩体位は、分娩各期において世界的に「体幹立位」であった。

 分娩時体位は、文化的に様式化された行動や習慣により決定されてきたが、その具体的な体位は、次の通り大別されている。

 なお、体位の分類には諸説あるが、以下を引用した。

(1)体幹から

ア 体幹立位

 ①立位(standing position)

 ②座位(sitting position)

 ③膝位(kneeling position)

イ 水平位

 ①側臥位(lateral position)

 ②膝肘位(knee-elbow position)

 ③腹臥位(prone position)

 ④仰臥位(dorsal position)

(2)体幹と下肢の関係から

 ①背腎位(dorsal recumbent position)

 ②砕石位(lithotomy position)

 ③蹲踞位(squatting position)

(3)世界各国の状況

 世界で最も古い分娩体位に関する彫像は、紀元前5,6千年の新石器時代のもので、トルコで発掘された座り分娩を行っている女神像である。

 原始時代の分娩は、自然分娩であり女性の排便・排尿の姿勢から「蹲踞位」あるいは「かがみ込んだ姿勢」が多いと推察されている。

 ①エジプト=原始的なレンガ作りの椅子に腰掛けるか、ひざまずいた立位により出産している。

 ②ギリシャ・ローマ=立膝位での分娩が繰り返された。

 ③中世初期のヨーロッパ=座位分娩が一般的であった。古代エジプトの分娩椅子は、可動性分娩台(ひざ上分娩)が改良されるなど今日の分娩台兼ベッドの原形となっている。また、優美に装飾された分娩椅子も出現している。

 ④このように古代から18世紀中頃までは、世界的に自然分娩の形態をとり、体幹直立分娩がその主流であった。

 ⑤フランス=1738年産科医 Fransoin Mauriceau は、 Chamberlen の鉗子、産科処置を容易にするため分娩椅子より臥位が適していることを提唱。この体位はヨーロッパ各地に広がった。

 ⑥アメリカ=1800年代初期の頃 W.P.Dewees、により仰臥位が導入された。依頼、西洋諸国の大部分において仰臥位または 側臥位が広く用いられるようになった。また、Dewees(1824)は、仰臥位で膝を引き上げた状態が分娩経過に良い結果を得られうと主張し、砕石位(lithotomy position)が分娩台の登場とともに主流となった。

 ⑦イギリス=19世紀には、吸入麻酔剤としてエーテルが使用され始め、麻酔下における分娩管理に便利な点から側臥位が採用された。

 

 以上のように、20世紀初期までは、ベッド形式により過程分娩が主流であったが、施設分娩の普及とともに臥位分娩が一般的となった。

 一方、未開発国での分娩体位は、原始的な形態をとり、アフリカでは体幹立位、ブラジル、ペル-、エクアドル、メキシコなどでも人種にかかわらず立位分娩が採用されていた。

(4)日本における状況

 わが国において、古来座産が多く行われていた。

 座産は、床の上にわらを敷き中腰になり、力綱の結び玉につかまった状態で分娩していた。それは、横になると乳不足になるとの俗信があり、横臥することは禁じられ、枕に肘をもたせた幾日もわらの上に座ってその姿勢をくずさなかったと言われている。

 欧米式産科学の導入は、分娩体位を一定の方向に普及させ、分娩介助に便利な仰臥位膝開排位を標準とした分娩台の開発となった。

 吾妻式分娩台(1907)が最初で、その後、大正中期にかけて中山式、慶大式、セイロカ式などを経て、昭和初期には日赤型、終戦後には篠原式の各分娩台が登場した。

仰臥位の不自然さと非科学性は、自然な体位への回帰提唱となりほぼ垂直位置に持ち上げることができる背もたれが付いた体幹立位座位分娩台の出現となった。

 しかし、一般に注目されず復旧しなかった。次に生理学的な面から研究された結果から生まれた座位砕石位分娩椅子も、背もたれが固定式であったために普及にいたらなかった。

 現在、世界的に従来の膝受け部あるいは踵受けを装着し、背もたれを起こし座位トスrことが出来る仰臥位分娩が広く使用されている。

 

(参考)分娩体位の変遷 1

(参考)分娩体位の変遷

1.分娩体位の意義等

 

 分娩時の体位を歴史的にみると、体幹立位(upright position)と水平(neutral position)に大別出来る。

 産婦及び近代産科学から見た理想的な分娩体位が、最近特に注目されている分野の一つである。

 近年、体幹立位が自然体位への復帰化の中で再評価されようとしている。

 この問題は、分娩時の生理学的・心理学的要素を考慮しながら、母体・胎児側より分娩現象を、より安全かつ容易に遂行しようとする時代的な要求といえる。

 現在、最も多く採用されている仰臥砕石位(lithotomy position)は、多くの長所を有しているが、歴史的背景より分娩体位を再考し、現行の習慣的な強制体位がどのように形成されてきたかを理解することは、分娩時体位の本質的な流れを生み出す、一つの鍵を与えることとなった。

 

おわりに

おわりに

 「初めての妊娠とお産」という題でこれまで多くの本が出版されています。

 その道の大家といわれる人の執筆で、多くのことが分かりやすく書かれています。しかし、座位分娩に関する記述はあったとしても、簡単な紹介にとどまっています。

 詳細はわかりませんが、数年前、私が全国の産婦人科医に対して行ったアンケート調査の結果から推測すると、日本では30%程度の産婦さんが剤でお産をされているのではないかと思われます。

 私は日本で最初の座位分娩台を作成し、分娩体位懇談会など学会発表、医学雑誌への論文投稿などで在分娩を紹介してきました。

 また、マタニティ雑誌やテレビ、ラジオの取材に応じて来ましたが、やはり座位分娩を体系的に妊産婦さんにわかりやすく、一冊の本にまとめる必要性をひしひしと感じておりました。

 17年前から参加しているドイツの大規模医療機器医学会メディカでも、ほとんどの分娩台が背板を起こすことを想定して制作されるようになりましたが、従来の仰臥位分娩台の域を出るものではありませんでした。

 2001年のメディカでは水中出産用分娩措置、いろいろな分娩体位を取れる特殊な分娩台が目に付いた程度でした。

 世界的に見ても、仰臥位分娩台で背板を少し起こしての分娩が主体で、厳密な意味での座位分娩が普及しているようには思いません。

 私どもの作りました座位分娩台、初代スペースメールはマザーズハンドと呼ばれる大腿受けが大変ユニークな形態をしておりましたので注目されました。

 分娩台にピンク色を採用したのもおそらく日本で初めてのことだと思います。

 それ以後は、どのメーカーの分娩台も大変明るい色を採用するようになり、この点でも画期的なことであったように思います。

 今回改良したLDR対応座位分娩台スペースメール・ラデレでは、マザーズハンドが従来の分娩台の膝受けの形態に似ておりますが、その動きは、骨盤大腿関節の動きを解剖学的に解明し、2軸回転で動かすという従来なかった思考の結果、実現したものです。

 医療の原点は、受ける患者さんが主人公であるべきですが、我々医療側は、ともすれば尊大な態度であったりするものです。

 しかし、常に患者さんの利便性を一番に考え、病院づくりをする考えは、最近始まった病院評価制度にも取り入れられています。

 少産時代になり、多くの産婦人科施設では、競って患者さんのアメニティを重視するようになったことは大変良いことだと思います。

 しかし我々医師がわすれてはならないのは、日々行っていることはあくまでも医療だということです。

 患者さんのアメニティと安全性を相反することもしばしば起こりますが、特に分娩では

母児を安全に終わらせることが重要です。

 「感動的なお産」より、何もなく、母児に楽に、あっさりと済む分娩の方が児の一生の出発にふさわしいと思うこのごろです。

 この本がきっかけで、一人でも多くの産婦さんが、座位分娩に魅力を感じ、座位分娩でお産したいと思っていただければ望外の喜びです。

 また、この書が多くの妊婦さんに読まれるようになり、座位分娩で分娩したい方が増えれば、その声で座位分娩台を採用される施設も増えてくるでしょう。

 そうなれば、座位分娩が一般的な分娩方法として認められることにつながりますので、教科書でも分娩法の第一番に座位分娩が載る日がくるのではないかと期待しています。

 現在のLDR対応分娩台スペースメール・ラデレが最良であるとは考えておりませんので、これからも、少しでも多くの産婦の方に楽な分娩をしていただけるよう、改良を続けていくつもりです。

 今回、執筆するにあたり、終始病院を支えスペースメールをともに制作した妻明子、編集に協力いただいた(有)アポ企画 高須賀卓氏、製造を担当した(株)モリタ製作所及び「ペリネイト母と子の病院」の職員一同に深謝いたします。

 田淵 和久

 

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座位分娩でお産が変わる

座位分娩を理解していただくためのガイドブック

発  行  日:2002年1月1日 第1刷発行

定  価:1200円

著  者:田淵和久

発  行:有限会社アポ企画

印刷製本:株式会社デイリー印刷クリエイティブ岡山

5-5.歯科専門メーカーで造られたスペースメール

第5章 お産の周辺

5.歯科専門メーカーで造られたスペースメール

 私と妻は、二人で流した数ヶ月の汗と涙の血症である座位分娩台は、自分の医院で一人悦にいって使用しておりました。その当時は、メーカーが製造して全国で販売するようになるなど思いもつきませんでした。

 ところが、あるハプニングによって、私たちの座位分娩台は、京都の歯科用診療台製造メーカーである、モリタ製作所に持ち込まれました。

 日本では、数社の産婦人科医療機器メーカーが、分娩台を造っています。

 これは、実際私たちが分娩台を造ってわかったことですが、設計から製造まで一貫して書かわているのは、お産を全く知らない男の集団なのです。

 何十年も汚い分娩台を造ってきた人たちでは、新しい私たちの考えを理解してくれそうにありません。

 モリタ製作所を最初に見学したとき、案内された応接室の棚に、患者さんが横になり歯医者さんが、頭の上から治療している模型が置いてありました。

 私が子どものときかかっていた歯科医師さんのところでは、背もたれの直角な椅子に座り、歯科医師さんは前から治療をしていました。

 モリタ製作所が日本で初めて、現在日本で広く使われている患者さんが横になり治療を受ける歯科診療台を造ったと説明を受けました。その後、工場を見学させていただきましたが、職人さんが1分間に何十万回も回転するモーターについて、誇らしげに説明してくれました。こういう新しい発想を現実に出来る会社、自分の仕事に誇りを持っている職人さんがいる工場なら、私たちの座位分娩台も新しい想像で製造できると思いました。

 メーカーに製造を任せるにあたっては、自分たちの知的所有権を確保しておくことは大変大切です。妻と二人で造った分娩台で特許がとれるとは夢にも思わず、妻の誘いにしぶしぶと弁理士さんのところを訪れました。

 特許申請を弁理士さんが扱うことも知らなければ、特許の権利が何であるかの知識も全くありません。

 弁理士さんにお産の説明を一からお話し、どうしてこの分娩台が優れているかをりかいしてもらうのに、随分時間がかかりました。

 弁理士さんも大変興味を持って聞いてくださいました。発明から特許取得まで、日本では4年もかかりました。

 一方、アメリカに出した特許は、1年半で受理され、知的所有権に厳しい、さすがアメリカと感心したものです。

 東京の科学技術会館で座位分娩台スペースメールは、日本医学器機学会の平成3年技術賞を授与されました。

 

5-4.夫の立ち会い

第5章 お産の周辺

4.夫の立ち会い

 最近は、出産の時、夫が立ち会うことが多くなりました。

 当院でも約50%の方が夫の立ち会いのもと出産をされております。痛みを我慢し、ガンバッテいる妻の側でかいがいしく援助する夫の姿勢は、時には感動的でもあります。

 妻が妊娠したと知ったとき、夫は、「大変うれしい」から「困った」まで様々な反応をします。

 分娩室でお目にかかる夫は、大変積極的で、まるで自分がお産をするような雰囲気の人から、買い物をする妻に、イヤイヤ付き合う夫の姿そのものの人まで様々です。

夫立ち会いのメリット・デメリット

 ニューヨーク死コロンビア大学で、私を案内してくださった女医のドーシー先生は、分娩室から抜け出して廊下で休憩する夫の姿を指差して「かわいそうな人たち」といいました。「どうして?」と訪ねますと、「立ち会いを希望する妻の申し出を断ったら離婚されますからね」との答えでした。

 何事も行き過ぎますと困ったものです。「一生に一度のことだから」と日本人に限らず、祝いごとを身分不相応に派手にやりすぎることが多いようですが、こと出産・育児に関しては私は「そんなに力まないで、もっと自然体になりましょう」と言いたいですね。

 さて、分娩時の夫の役割はなんでしょうか。

①分娩の進行に伴い増強する痛みは、収縮する子宮の痛みだけではありません。むしろ腰の痛みを強く訴える人が多くいます。腰をさすってあげましょう。

②押し寄せてくる陣痛に合わせて、妻は懸命に呼吸法をしています。喉が渇いてきますので、お茶を飲ませてあげましょう。

③しっかり汗もかいています。タオルでやさしく拭いてあげましょう。

④痛みが押し寄せてくると不安はだんだん強くなってきます。もっと痛みが強くなってきました。「何で私だけこんな痛みをガマンしなければならないの!」と妻は怒りをあなたにぶつけて、言葉を荒らすかも知れません。「いつもの妻とは違うぞ、本当の妻の姿はこれだったのか」と誤解をしないでください。耐え難い痛みを、やさしいあなたにぶつけて気をまぎらしているのですから。

年に数人の夫は分娩で真っ青な顔になって、時には倒れてしまう人もいます。

 私どももよく気をつけてはいるのですが、一瞬のことで間に合わないこともあります。子宮の入口が全開、外陰部を消毒し清潔なシーツを敷いて、赤ちゃんの娩出に備えるころから出血が増えてまいりますと、出血になれていない男性は時に気分が悪くなるのです。

 きっと、夫の心は傷ついていると思います。そんなに力まないで。子宮口が全開してイキンでも良くなると、妻はそばにいてくれた夫のことなど気にしなくなります。

 それまで、力を入れたくても頸管裂傷を起こさないよう、力を入れないでガマンさせられて、つらい思いをしていた妻は、イキムことができるようになり、ホッとしているのです。

 よくガンバリマシタ。外に出て一息ついてください。間もなく元気な赤ちゃんの誕生ですよ。

 次は座位分娩の時の、夫の役割について少しお話いたしましょう。

 一番つらい分娩第一期のとき、夫は妻の様々な要求になるべく応えてあげてください。

 子宮口が全開する頃から背板を起こして座位にします。妻の目線は、夫の目線と同じ高さになりますので、夫は、分娩台の側方に立ち、良く目を見てあげてください。

 目が不安を訴えていれば、その解消に努めましょう。妻の体の一部に手を触れておきましょう。スキンシップが一番の妻の安心です。座位分娩は、このように夫が妻に援助をしやすい体位と言えます。

 

 

 

5-3.LDR

第5章 お産の周辺

3.LDR

 L(labor陣痛)、D(delivery分娩)とR(recovery回復)を一室で行うのをLDRシステムによる分娩と言います。

 長い妊娠期間を終了し分娩が開始した時、どの産婦さんの赤ちゃんも健康であることが一番望まれますが、実際はそのようなわけには行かないことがあります。

 もともと、お腹の中の胎児は低酸素環境で生育をしています。

 子宮がくり返し収縮する陣痛の間、赤ちゃんはもっと低酸素状態で過ごさなければなりません。

 健康な赤ちゃんは主として、肝臓にエネルギーを蓄えていますので、長い分娩期間、分娩後の飢餓期間でも、無事に過ごすことが出来るようになっています。

 しかし、分娩開始までに余力を使い果たした赤ちゃんの場合は、こうした分娩のストレスに耐えられなくなって胎児仮死に陥っていくのです。

 胎児仮死と診断された場合は、速やかに赤ちゃんを母体から外に出す必要があります。(急速逐娩)その場合陣痛室では、これらの胎児の監視が一般には充分には行えません。

 その反対に、手術して次いで設備の整ったのは分娩室だと考えられます。私は、昭和54年開業以来、陣痛室を持たずに全てのお産の経過を分娩室で見ています。

 スペースメールがアメリカで特許を得たとき、招かれたミューヨーク市にあるコロンビア大学の分娩室で開いた説明も同じでした。

ですから、LDRは整った環境で分娩を行うと言う意味であって、家庭的雰囲気で、医療器機をなるべく隠してしまうということとは直接の関係はないと私は考えています。私どものスペースメールLDRは、このLDRシステムに適した画期的な分娩台になりました。

 

 

5-2.分娩管理

第5章 お産の周辺

2.分娩管理

 お産の開始は「陣痛周期10分、すなわち陣痛頻度が1時間6回となることをもって、臨床的な陣痛開始時期とする」となっています。

 「陣痛」という言葉は、何か恐ろしい響きがして使いたくないのですが、英語でも「痛み」と表現します。

 陣痛は、自分の意思では調節できない「定期的な子宮の収縮」のことで、収縮の始まりから次の子宮収縮の始まりまでを「陣痛周期」と言います。

 どのような順序で、子宮が定期的に収縮してお産が始まるのか、研究が色々されていますが、いまだはっきりとは解明されていません。

 陣痛は赤ちゃんを子宮外、骨盤外に出す「娩出力」となります。

 子宮の収縮は、自然と必要に応じて娩出力が増してくるので、お腹に力を入れる「腹圧」はなくとも、赤ちゃんを産むことは可能です。

 私どもの病院でも「いきまないお産」のこころみがなされています。

 子宮の中の圧力は、分娩の各期により平均圧が異なってきますが、400~450mmHg

です。

 子宮収縮が始まって治まるまでは、平均約50秒であり1分を越すことはありません。

 1分30秒から2分以上、子宮の収縮が続くものを過強陣痛といいます。

 陣痛の間欠時間が短く、持続時間が延長する過強陣痛の時は、子宮の内圧が上がって、ついには血液循環が阻害され、赤ちゃんが低酸素状態に陥ることになります。

 一般的には子宮の入口が柔らかくなり、お産の準備が出来てから、陣痛が開始するようになってくる例が多いのです。

 それでも、平均で3kgの赤ちゃんを支えていた子宮の入口は大変硬く、この陣痛(娩出力)によって、子宮の入口は、本当に徐々に開いてくることになります。

 陣痛誘発剤と呼ばれる薬剤を、点滴などで注入すると陣痛は強くなってきます。この力を借りてお産をすると進行は速くなりますが、必要以上に、陣痛を強くすることは、子宮破裂、頸管裂傷の原因ともなりますので、慎重にしなければなりません。

 お産の進行を観察しておりますと、心拍数が低下して赤ちゃんが「苦しい、助けて」という状態になることがあります。そうすると不思議なことに直後の陣発発雷は遅れてきます。

 このように、赤ちゃんがくれる情報はとても大切で、これを無視してはいけないと私は思っています。

 急に陣痛が弱くなったからといって、すぐに強化する方法は厳に慎まなければなりません。妊娠の途中で赤ちゃんが早産しないように硬かった子宮の入り口は、開くのには当然時間がかかります。

 一方」、子宮の入り口が柔らかくて、途中で何度も出そうになった子宮は開くのに時間がかかりません。

 このように、お産の進行に個人差があり、内圧の上昇というあまり良くない環境に置かれ、刻々と変わる赤ちゃんの元気さを知ることは大変重要なことです。現在は、お腹の上に置いた器械で子宮の収縮と胎児の心拍動を計測する方法が、唯一リアルタイムに胎児の状態を知る方法として使用されています。

 胎児心拍のパターンは色々研究され分類されています。

 場合によっては、速やかに帝王切開をしなければならないこともあります。

 また、赤ちゃんの頭皮に直接電極をつけて測定する方法が、最も正確にで~^たを収集できるのですが、早期に破水させる必要があるので私どもは採用していません。

 外側法と呼ばれるお腹に2種類の装置をつける方は、産婦さんの行動に制限を与えるので大変苦痛だと思いますが、現在では仕方が無いと思います。

 少しでも早い時期に機器が改善されて、産婦さんの負担にならないような工夫が望まれます。

 

5-1.無痛分娩

第5章 お産の周辺

1.無痛分娩

 分娩第一期は、ただ待つだけと何度も述べてきましたが、実はこの待つことが大変難しいのです。

 次々やってくる陣痛の山は、産婦さんにとってまったく耐え難いものだと思います。今でも「胎児は大変だけれど、親だからガンバラナケレバならない。だからその前の分娩の痛みも当然ガマンしなければならない」という考えがあります。

 日本では、特に無痛分娩に対する理解が低く、わずかな方が何らかの方法で、痛みを和らげているに過ぎません。

 一方欧米では、70〜80%の産婦さんが、無痛(硬膜外麻酔法)を選択してお産をされています。

 それはなぜでしょうか?

 私は、1945年に第二次世界大戦で、日本が敗戦国になるまで、日本が男性絶対優位の封建社会だったことが一番の理由だと思っています。

 極端な話のようですが、戦前の考え方では、女性は子どもを生む道具、結婚は家という形を守るための手段だったのです。

 そんな社会では、当然、女性は尊重されておらず、女性の気持ちや願いは無視されていました。

 「お産は痛くてあたりまえ」を主張する考えは、時代錯誤だと思いますが、自然(何もしない)が良いとする考えが今も根強いようです。

 最近多い医療事故を考えてみますと、分娩に医療を加えることに、ためらいがあることも理解できます。要は、分娩を取り扱う施設では居呂を慎重に安全第一に行い、産婦さんから信頼されることが大切だと思います。

 人間は、脳が大きくなって知識が発達し、素晴らしい道具を手にしてきました。その恩恵にあずかり、私は快適な生活をすることが出来ています。

 一方、ことお産に関しては、女性自身が産婦さんに冷淡であるようで、私には不思議に思えます。癌の方が亡くなる前に激痛で苦しんでいても、病院では、あまり鎮痛剤を使用してもらえなかった時代がありました。

 最近ではそれが反省され、緩和医療が用いられて、人間としての尊厳を保ったまま死の世界へ旅立つことが出来るようになってきました。

 心と体が同時に衰退し、静かに死を抑えることが出来るようになったことは、すばらしい人間の英知だと思います。

 同様に、痛みのためにパニックを起こし、自尊心を傷つけられ、育児に自信をなくしてまでお産をしなければならないのならば、お産を希望する方は少なく、少産少子時代はまだ続くように思うのです。お産を人生最高のイベントのように過大に考えてたり、「どのように産むか」を議論するより「安全に楽に産んで、どのように育てるか」の方が大切ではないでしょうか。もし、痛みがあることで赤ちゃんが可愛くなるのであれば、男性はお産に苦痛を伴居ませんので、自分の子どもも愛せないことになってしまいます。それが間違いであることは誰でも分かることですね。

 私の病院でも、実子特例法が施行されてから、出産直後の子どもを実子として養子に迎え、大変幸せそうに帰られる不妊のご夫婦がありますが、子どもを育てる気持ちに痛みのあるナシは関係ないと確信しています。

 脊髄を保護するくも膜、硬膜の外(硬膜外腔)にチューブを挿入留置し、少しずつ麻酔薬を注入する硬膜外麻酔は、意識を消失することもなく、安全な無痛分娩法として、もっと普及してもよいと思われます。

 硬膜外麻酔をすると、緊張が取れ、自然な子宮収縮に加わっていた不要な力みがなくなり、胎児への血液循環が改善します。

 緊張がとれると子宮の入口も弛緩してきます。その結果、当院のデータでは、硬膜外麻酔分娩によって分娩時間の短縮、産後の臍帯血酸素分圧の上昇という良い結果がでています。

 痛みだけがとれ、運動機能は失われませんのでイキムことができます。分娩が夜間にかかっても睡眠がとれますので疲れません。会陰切開やその縫合に痛みがありません。最大のメリットは痛みが無いので安心してお産にのぞめることでしょう。和足共の病院では現在80%以上の方が、この方法でお産をされています。

 硬膜外麻酔分娩をするために分娩誘発することは行っておらず、自然にはお産の経過の中で24時間対応で行っています。これまで行った6000例以上の硬膜外無痛分娩例は重大な麻酔事故をおこしたことは経験がありません。

 また、座位分娩で硬膜外無痛分娩を行うことは全く問題がありません。

4-3.LDR対応座位分娩台スペースメール・ラデレ

第4章 座位分娩台スペースメール

3.LDR対応座位分娩台スペースメール・ラデレ

  これは、一番新しいLDR 用スペースメールですが、この分娩台の特徴を一言で言えば、下肢を支える仕組みの違いです。

 従来の分娩台が踵受けで踵を支えるか、膝の裏で支えるような仕組みになっているのに対し、スペースメールの違いは、マザーズハンドと呼ばれる、大腿受けで大腿を支えるようになっていることです。

 子宮口が全改題するまでの分娩第一期は、産婦さんの好む体位で過ごすことが推奨されてきました。

 ツインでは、分娩室に「ザ・シャワー」というシャワー設備があります。椅子に座れば、四方から、心地よい温度のシャワーが刺激をします。

 裸になり心地よいシャワーをあびるのは、妊婦水泳同様、大変気持の良いリラックスを与えてくれます。

 しかし、水中に産み落とすのは、胎児の衛生管理上問題があると思います。

 一般的には、分娩第一期も、後半になると、産婦さんは痛みのために横たわる方を好むようになります。

 座位分娩の利点を生かすためには、初めてのお産の方で子宮口の開きが7〜8㎝、2回目以降の方で、5〜6㎝位になると背板を起こして座位にするほうが良いと考えています。

 その時期、胎児の児頭は、回旋しながら狭い骨盤を下降しています。

子宮口が完全に開いて居ませんので、産婦さんは自然に起こる陣痛の山を、静かに呼吸法で乗り切っています。

 産婦さんは力を入れる必要はないので、ベッドの背板を起こし、リラックスしてゆったりと過ごすことが望まれます。

 ただし、緊急時の対策のために、血管を確保して、腹部には胎児の状態管理のために、分娩監視装置を装着する必要があります。

 子宮口が全開大(赤ちゃんの頭が通過できる広さ)しますと、分娩第二期、娩出期といいます。

 児頭は、骨盤の奥深く下がって、周囲から圧迫を受けている時間ですが、胎児のモニターで異常がない限り、約2時間以内にこの時期が終了すれば問題はありません。

 児の娩出には通常、自然に起こる子宮の収縮にあわせてイキミと呼ばれる産婦さん自身が腹圧をかけて動作を加えていきます。

 「お産、分娩」という言葉からは「苦しそうな表情をして、汗だくで、力を入れている姿」を想像する人が多いと思います。

 しかし、初めてのお産の方で、始まりから終わりまで平均14時間かかるお産の全経過からみますと、この分娩第二期は30分間です。そして、イキムのは、数回にしかすぎないのです。

 一回のイキミに要する時間は、1分間ですから、みなさんが想像する汗いっぱいでイキンでいるお産は、せいぜい10分間の出来事だと言っても過言ではありません。また、胎児の心音さえ良好であれば、イキマなくてもお産はできます。

 イキム場合は、私の病院では「グリップを握り、足を体に引き付けるようにイキミましょう」と説明しています。

 従来の仰臥位分娩では「足を突っ張って、頭の上の握り棒を引き寄せるように」となるのですから、スペースメールでは、根本的に異なる説明をしているのです。

 kのように、すばらしいLDR 用在分べん台スペースメールは、最初のスペースメール誕生から16年経って、2001年4月、全く新しいものに生まれ変わりました。

 2000年4月に徳島市で開催された日本産婦人科学会で、その概要を発表し、スペースメールLDR(ラデレ)と名づけました。LDR対応の座位分娩台です。LDR(ラデレ)というのは、

L(ラ)・・・labor陣痛

D(デ)・・・delivery分娩

R (レ)・・・recovery回復

の三つの英単語の頭文字を取った造語です。

 LDRによる分娩は、1970年代のアメリカで誕生したとされています。

 当院では、1979年の開業以来このシステムで行っています。おそらく、日本で最も早いLDR分娩システムを取り入れた施設だと思います。最近では、夫や家族も立ち会う、アットホームな環境を持つことを強調する施設もあります。しかし、家族、特に子どもを入室させて行う分娩は、その子どもに、お産に対する恐怖の潜在意識をもたせてしまう危険性がないとは言えないので、私は反対です。

 また、LDRに限らずアットホームな雰囲気、美しい分娩室、個室のプライバシーを保つことは大切なことで、LDRに限ったものではありません。

 LDR本来の趣旨は、大切な陣痛の時期を分娩室同様整った医療環境の中で、一貫して行うということなのです。

 スペースメール・ラデレを紹介する前に、従来のLDR用の分娩台について説明いたしましょう。LDR用分娩台は、長い陣痛期間を快適に過ごすための工夫が強調されており、幅が広く外観を重視しベッドとしての機能を優先しています。

 しかし、幅が広いということは、足を載せる支持台の幅も広くなるので、産婦は足を開きにくく、また関節に負担となります。

 解剖学的に見ると、これらの分娩台の大腿を支える構造が、産婦さんのまた関節には無理な形であることがわかります。

 ベッドとしての機能を重視するあまり、分娩台としての機能を低下させているのが現状です。その点、今度渡しが作成したスペースメール・ラでレは、

(1)幅が広く安定性と住居性が高い。分娩第一期の時には、産婦さんが自由な体位をとることが出来る。

(2)下肢を支える(脚受け部)機能は、人間の胎盤大腿関節(股関節)の機能を分析して人間同様3つの回転軸を利用して回転させることに成功した。その結果、足を広げるとか、お腹のほうに引き付けるなど、下肢の動きを大変スムーズに行うことが出来るようになった。

(3)脚受け部の動きに連動して、お尻を受ける台(臀部受け)が動き、分娩第二期には、お尻に沿う形になり、お尻が安定し下のほうへずれない。

(4)産婦さんの意思で、イキミ時、砕石位から蹲踞(そんきょ)位(しゃがむ)に移行できる

(5)ベッドの下1/3の部分は、切り離すことができるようになっており、分娩直後で歩行が困難な産婦を、病室に移動するストレッチェーとして使用できる。

(6)また、分娩直後の新生児の処置台としても幅が広く最適で可能である。

などなど、スペースメール・ラデレには以上のような特徴があります。形は美しく、台は低い位置に下降でき、大腿受けが分娩台に自動的に収納されますので、産婦さんは、低い位置で正面から分娩台に座ることができます。

 産婦さんが座ると、大腿受けは、自動的に上昇し足を分娩に適した砕石位に持って行きます。

 イキム時は、足を自分の意思で胸の方に引き付けることができますので、しゃがむようなかっこうで座るようになります。

 今までのスペースメールに比べて本当に楽で、美しく、理屈にあったお産ができるようになりました。