5-1.無痛分娩

第5章 お産の周辺

1.無痛分娩

 分娩第一期は、ただ待つだけと何度も述べてきましたが、実はこの待つことが大変難しいのです。

 次々やってくる陣痛の山は、産婦さんにとってまったく耐え難いものだと思います。今でも「胎児は大変だけれど、親だからガンバラナケレバならない。だからその前の分娩の痛みも当然ガマンしなければならない」という考えがあります。

 日本では、特に無痛分娩に対する理解が低く、わずかな方が何らかの方法で、痛みを和らげているに過ぎません。

 一方欧米では、70〜80%の産婦さんが、無痛(硬膜外麻酔法)を選択してお産をされています。

 それはなぜでしょうか?

 私は、1945年に第二次世界大戦で、日本が敗戦国になるまで、日本が男性絶対優位の封建社会だったことが一番の理由だと思っています。

 極端な話のようですが、戦前の考え方では、女性は子どもを生む道具、結婚は家という形を守るための手段だったのです。

 そんな社会では、当然、女性は尊重されておらず、女性の気持ちや願いは無視されていました。

 「お産は痛くてあたりまえ」を主張する考えは、時代錯誤だと思いますが、自然(何もしない)が良いとする考えが今も根強いようです。

 最近多い医療事故を考えてみますと、分娩に医療を加えることに、ためらいがあることも理解できます。要は、分娩を取り扱う施設では居呂を慎重に安全第一に行い、産婦さんから信頼されることが大切だと思います。

 人間は、脳が大きくなって知識が発達し、素晴らしい道具を手にしてきました。その恩恵にあずかり、私は快適な生活をすることが出来ています。

 一方、ことお産に関しては、女性自身が産婦さんに冷淡であるようで、私には不思議に思えます。癌の方が亡くなる前に激痛で苦しんでいても、病院では、あまり鎮痛剤を使用してもらえなかった時代がありました。

 最近ではそれが反省され、緩和医療が用いられて、人間としての尊厳を保ったまま死の世界へ旅立つことが出来るようになってきました。

 心と体が同時に衰退し、静かに死を抑えることが出来るようになったことは、すばらしい人間の英知だと思います。

 同様に、痛みのためにパニックを起こし、自尊心を傷つけられ、育児に自信をなくしてまでお産をしなければならないのならば、お産を希望する方は少なく、少産少子時代はまだ続くように思うのです。お産を人生最高のイベントのように過大に考えてたり、「どのように産むか」を議論するより「安全に楽に産んで、どのように育てるか」の方が大切ではないでしょうか。もし、痛みがあることで赤ちゃんが可愛くなるのであれば、男性はお産に苦痛を伴居ませんので、自分の子どもも愛せないことになってしまいます。それが間違いであることは誰でも分かることですね。

 私の病院でも、実子特例法が施行されてから、出産直後の子どもを実子として養子に迎え、大変幸せそうに帰られる不妊のご夫婦がありますが、子どもを育てる気持ちに痛みのあるナシは関係ないと確信しています。

 脊髄を保護するくも膜、硬膜の外(硬膜外腔)にチューブを挿入留置し、少しずつ麻酔薬を注入する硬膜外麻酔は、意識を消失することもなく、安全な無痛分娩法として、もっと普及してもよいと思われます。

 硬膜外麻酔をすると、緊張が取れ、自然な子宮収縮に加わっていた不要な力みがなくなり、胎児への血液循環が改善します。

 緊張がとれると子宮の入口も弛緩してきます。その結果、当院のデータでは、硬膜外麻酔分娩によって分娩時間の短縮、産後の臍帯血酸素分圧の上昇という良い結果がでています。

 痛みだけがとれ、運動機能は失われませんのでイキムことができます。分娩が夜間にかかっても睡眠がとれますので疲れません。会陰切開やその縫合に痛みがありません。最大のメリットは痛みが無いので安心してお産にのぞめることでしょう。和足共の病院では現在80%以上の方が、この方法でお産をされています。

 硬膜外麻酔分娩をするために分娩誘発することは行っておらず、自然にはお産の経過の中で24時間対応で行っています。これまで行った6000例以上の硬膜外無痛分娩例は重大な麻酔事故をおこしたことは経験がありません。

 また、座位分娩で硬膜外無痛分娩を行うことは全く問題がありません。

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