第4章 座位分娩台スペースメール
2.分娩体位とスペースメール
子宮口が全改題するまでの分娩第一期は、歩いたり、横たわったり、座ったりと産婦さんの自由にまかせる施設が多くなってきました。
しかし、陣痛が強くなりますと、多くの産婦さんはベット上で過ごすことを選ぶようになります。
毎年秋にひらかれます分娩体位懇談会は、2000年9月の第16回岐阜大会で終了しましたが、その会では、
(1)分娩体位というと、分娩第一期の広範囲から、子宮口が全開大して児が母体に娩出されるまでの分娩第二期の体位のことを指す。
(2)分娩体位としては、座位分娩が優れている。
ということで、ほぼ合意したように思います。それまでの分娩体位は、仰臥位タイプがほとんどでした。
それでは、なぜ、今まで座位分娩台が造られなかったのでしょうか。
その疑問の答えは、
①多くの産科医は男性であるため、情勢の分娩体位の重要性を認識しなかった。
②分娩には立ち会うものの、仰臥砕石位が会陰切開創の縫合には都合がよく、座位分娩にする必要性を感じなかった。
などが主な原因ではないかと私は考えます。
わたしも、開業して妻に指摘されるまでは、全く仰臥位分娩をしている自分に疑問を感じていませんでした。
昭和54年3月、私はそれまでの勤務医をやめ、岡山市郊外で産婦人科医院を開設しました。
職員数も少なく、私の妻が受付、入院患者さんの食事の準備、掃除、選択と一人何役もこなしていました。
お産があると産婦さんに付き添って、汗を拭いたり、腰をさすったり、励ますことが彼女の仕事となりました。
開業後半年も経った頃、そんな妻から、私に鋭い質問がありました。
①背もたれを少しあげて、お尻は水平のままで力が入りますか?
②さかごのお産のとき、院長は産婦さんの正面で介助するのに、普通のお産の時は側方から介助するのはなぜですか?
③足を踏ん張っては体が上がってしまい、赤ちゃんを出す力が弱くなりませんか?
④分娩台や医療機器は、黒とか茶色の汚い色を使うのはなぜですか?
さすが、4人の子どもを生んだ母親ですから質問も鋭いのですが、私は正直なところこれらの質問に答えることが出来ませんでした。
それから、しばらく経ったある日の早朝、ハサミと紙を手にして妻は紙細工を始めました。
それが、現在、市販されている座位分娩台スペースメールの原形でした。
その紙型をもとに、木片をくみあわせて産婦の大腿を支えるマザーズハンドの原形を作り、その上から形を取り、木型を作成、最終的にFRP樹脂の製品を完成したのです。
椅子屋に持ち込んでマザーズハンドにカバーを付けてもらい、産婦の臀部を支える部分が完成しました。今まで見たことのない奇妙な形でしたが、なんとそれを乗せるために、院内に2台しかない電動の診察台の1台を壊してしまったのです。
これがスペースメール誕生の裏で出た院長の涙です。
さて、分娩体位が考え直されるようになり、座位分娩が優れていることが認知されるようになりました。
しかし、立位産、しゃがみ産、四つ這い産などの姿勢も提唱され、同じレベルで論じられましたが、これらの姿勢は産婦さんに本当に楽でしょうか。
自然分娩を提唱する人の中では、そうであったからという理由で立位産、しゃがみ産などを強調する方もいますが、道具を持たない動物と、道具を手に便利になった人間が同じスタイルの分娩方法で良いと言えるでしょうか。
さらに、前章で述べてたように解剖学的構造が違うので、人間のお産は、サルのように四足歩行する動物のお産とは、必然的に違うお産になってくるのです。むしろ、立位や、中世の分娩椅子よりは仰臥位の方が産婦に楽な姿勢と言えます。
それだからこそ、今は見直しをされていますが、仰臥砕石位が世界中の分娩体位になったのではないでしょうか。初期の分娩台は、仰臥位しかとれませんでしたが、頭部をあげようと言うことで、やがて背板を起こすタイプの分娩台が登場しました。
しかし、いずれもお尻を載せる臀部受けは固定しておいて、背中を起こす背板の角度を変えるだけという構造になっておりました。
この基本的な考えは、現在も変わっておりません。
下肢は踵受けで保持しますが、この考えも共通しています。
確かに背中を起こしますので、産婦さんの視線は前方へ向き、座位分娩の定義には適うことになります。
しかし、仰向けに寝た格好から、上体だけを起こしていくときの感じを想像してください。足の方へ向かって、お尻がずっていくことは容易に想像できるでしょう。その防止のために、踵を突っ張る仕組みになっています。
または、膝を下から支える構造になっています。
状態をおこし、体に直角に大腿(太もも)を曲げ、膝を屈折した姿勢を、座位砕石位(ざいさいせきい)と呼びます。
この姿勢では、イキミを加える時、お尻が下方にずれないようにするには、踵に力を入れなければなりません。そうすると、体は上方に移動しようとして、イキミに充分力が加わりません。
また、2・3時間この姿勢でいることは大変な苦痛を想像させます。