3-2.分娩第一期の過ごし方

第3章 座位分娩

2.分娩第一期の過ごし方

 陣痛が開始し、赤ちゃんの頭が通過できるまで開くと「子宮口が全開大した」と表現します。直径約10㎝ですが、子宮口閉鎖から全開大まで期間を分娩第一期と言います。

 赤ちゃんは頭が一番大きので、頭が通過すれば子宮からからだはすべてでてくることができることになります。

 分娩第一期は初めてのお産の方(初産婦)では、平均して約14時間が必要です。

 お産が開始する前と、開始した後との一番大きな変化は、子宮が収縮して子宮内の圧力の上昇が始まることです。

 子宮の内圧が高くなると、子宮の筋肉を貫通して流れる子宮動脈の流れが悪くなります。

 お母さんが呼吸によって取り込んだ酸素と、お母さんが蓄えた栄養は、胎盤を介して赤ちゃんに流入しているわけですから、子宮が収縮しているうちは、酸素や栄養の流入が悪いということを表しています。極端に言えば、陣痛発作ときは窒息状態にあると言っても良いのです。そのために、子宮が収縮する時間は一回に1分以内にきまっているのだろうと私は考えています。

 実際の分娩に立ちあっていますと、子宮の収縮を主導しているのは赤ちゃんだなと良く思います。

 例えば、それまでまったく元気であった赤ちゃんの心拍数が、何らかの問題が生じて落ちてきますと(徐脈)、子宮の収縮は次の瞬間から止まってしまいます。

 子宮の筋肉の緊張がなくなり、子宮内圧が低下すると、血液の流れが改善されて、酸素が充分赤ちゃんに行くようになります。

 やがて心拍数が改善され、子宮は再び収縮するようになってきます。また、夕方陣痛が開始して、生まれないままに朝を迎えますと、お母さんの疲労は強くなってきますが、それに合わせたように子宮の収縮は弱くなってまいります。

 私は、赤ちゃんが「お休みください」とお母さんに訴えているサインだと判断して、そういう時は、陣痛誘発剤の投与をして陣痛を強くするようなことは決してしないようにしています。お母さんの疲労が回復してきますと、不思議なことに再び子宮は力強く収縮を開始するからです。

 実に巧妙なこの子宮収縮の仕組みには驚かされてしまいます。

 上手なお産のコツは、こういう自然の仕組みに逆らわないことが大切な要素だと考えられます。

 子宮の出口の開き方は、ちょうどジャンボジェット機が長い滑走路を使って離陸するのに似ています。

 ゆっくりスタートした飛行機は、徐々にスピードを挙げて滑走路を走りますが、なかなか離陸しません(潜伏期)

 だいぶ走って機首を上げだすと、離陸して一気に大空高く上昇していきます。

 分娩第一期の子宮口の開き方は5~6㎝ぐらいまではゆっくりしていますが、その後一気に開きます。(フルードマン曲線として表します)

 痛みも徐々に強くなりますが、この5~6㎝から加速的に強くなるのです。(進行期・加速期)

 妊娠末期に左右どちらかに向いていた赤ちゃんは、お産が始まるとアゴを胸につけるようにします。(第一回旋)

 そうしますと、地頭周囲のうちでもっとも小さい周囲、すなわち、小斜径周囲で最も少ない抵抗で、後頭部を戦闘に、骨盤の中を下降し始めます。

 次に顔をお母さんの背部に向けて45度回旋をします。(第二回旋)

 それは骨盤誘導線に沿っての理屈にあっての回旋なのです。分娩第一期は、子宮口の出口が徐々に開いていく時期ですが、この時期、力を入れると子宮の出口に強い力が加わって破れてしまいます。(頸管損傷)

 頸管損傷では、子宮動脈が切れますので大出血がおこります。

 頸管裂傷を防ぐ唯一の方法は、頸管が破れないようにゆっくり子宮口が開くのを待つことしかありません。

 ほとんどの産婦の方の苦痛は、この分娩第一期の長い経過にあるようです。苦痛を和らげる方法として、ラマーズ法、リーブ法、夫立会い、薬物和痛法、硬膜外麻酔などの工夫されてきました。産婦さんの姿勢は、ベッド上に横になったり、椅子に腰掛けたり、自由に歩き回ったり産婦さんの選択に任されます。

 もっとも、赤ちゃんの心拍数と陣痛の状態をきちっとモニターすることを怠ってはいけません。

 従来、分娩第二期を「お産」と称して、分娩第一期を陣痛室で過ごし、分娩第二期になって「さあ、お産しましょう」と分娩室に移動する方法が取られていました。

 これを、引っ越し産と言います。

 私どもの病院では、1979年の開業以来、入院された産婦さんはお産の終了までずっと分娩室で過ごしています。最近、この方法をLDRシステムと一般に言われています。

 赤ちゃんが狭い骨盤の一番底に下った頃、赤ちゃんに危険性が高いのは当然ですが、子宮の入口がまだそれほど開いていない時期にも、突然胎児心拍の低下を観察することが時にあります。

そんな緊急事態に対処できるのは、設備の整った分娩室なわけですから、陣痛室から分娩室へ移動する必要性は無いと考えています。

 また、心理的にも痛みの一番強い時期に移動して、突然違った環境の分娩室に入室するのでは落ち着かないのではないでしょうか。

 子宮内圧は、分娩各期により平均圧が異なってきますが、400から450mmHgです。

 子宮収縮が始まって治まるまでは、通常平均50秒で、1分を越すことはありません。

 この、子宮内圧と胎児の心拍を測定する機械を「分娩監視装置」と言います。

 お腹の上に圧力計と胎児心拍測定装置をつけ、バンドで固定する方法(外側法)と、子宮の中に直接、圧力計と頭皮心電図をつける内測法がありますが、一般的には、外側法が広く行われています。

 いずれにしても、機械の装置は、産婦さんの行動を制限しますので、煩わしいのですが、現状では、胎児の状況を知る唯一の方法ですので理解と納得が必要ですね。近い将来には機械が改良されて、産婦さんへの負担が軽減されるはずです。

 分娩監視装置の情報から、私たちは、胎児の状態をリアルタイムに知ることが出来ます。

 胎児の異常は、子宮口が全開に近くなるほど起こりやすくなりますが、早期から起こることもありますので、当院では、入院から分娩終了まで連続して分娩監視装置を装着し、胎児の状態を把握するよういしています。

 人間が2足歩行するようになったために、子宮の入口は、大きな重量を支える必要があり、陣痛が開始しても単純には開かないことを理解していただけたと思いますが、分娩第一期の過ごし方のまとめとして

 ①立っても、座っても、横になってもいい。

 ②自分の楽な姿勢をさがして変化させる。

 ③分娩第一期は、時間はかかっても心配ないので、ゆったりとした気持ちで過ごす。

 ④分娩開始までに、呼吸法を毎日練習しておいて、積極的に呼吸法を行う。

 ⑤痛みとともに不安が強くなるので、できれば、夫とともに過ごし、不安を少しでも軽減する。

といったようなことに留意すると良いと思います。

 

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