第3章 座位分娩
1.座位分娩がすばらしい
(1)座位分娩とは
座ってお産するスタイルが、座位分娩と呼ばれています。
しかし、一口に座ると言っても、学校にあるような背もたれが硬く直角な椅子もあれば、応接室の椅子、社長の椅子など様々な椅子があります。
座位分娩の定義はきちんと決まっているわけではありません。背中を起こすと、産婦さんの視線は前方に向きますので、娩出期にこのように状態を起こしてするお産を座位分娩と定義して良いと思います。
状態を起こす角度にも決まりはありませんが、娩出期以外は、産婦さんの自由にまかせるという意見が大勢を占めています。
座位分娩台を使用した場合は、骨盤解剖学的分析では、角度40度から45度が座位分娩としての状態を起こす良い角度になります。
リラクゼーションで使う安楽椅子を想像してもらうのが、一番適当だと思います。
分娩は、
分娩第一期(開口期)・・・分娩が開始して子宮口が全開大するまで
分娩第二期(娩出期)・・・胎児が母体外に娩出されるまで
分娩第三期(後産期)・・・胎盤が娩出されるまで
の三期に分けられます。
それでは、分娩のいつの時期から座るのでしょうか?
子宮が全開大するまでの分娩第一期は、胎児の監視を充分行っていれば、産む人の自由で良いというように最近では考えられています。
実際は、分娩の第一期(開口期)の極期ともなると、大半の方は、歩くのが苦痛ですから、ベットの上にいることを選択されます。
私は、この時期から上体を起こす座位をとるのが良いと考えています。
(2)なぜ在分娩が良いのでしょうか?
「ハイ!オシッコシマショウネ」
やっとオムツがとれるころ、幼児の背後からお母さんが、仏桃を抱えて「ハイ、シーコッコ」などと言いながら、おしっこをさせているのを皆さんは見られたことがあるでしょう。
幼児は、足をぶらぶらさせながら、おしっこをしていても決して力を入れていません。
そのとき幼児の背中は45度から50度に傾き、大腿部はお腹に引き付けられています。
お産は排泄行為と同じ仕組みと言われているように、これこそ人間らしいおさんの原点なのです。
(3)座位分娩がなぜ優れているのでしょうか?
座位分娩のすぐれている点は
①産婦さんの視線の高さと介助者の視線の高さが同じで産婦さんが安心できる。
②出口が狭く、前に曲がっている人間の骨盤の解剖学的特徴に合った分娩体位である。
③お産の経過が早いので産婦さんが疲れない。
④お産が済むと、赤ちゃんを直接胸に抱くことができるので母児の触れ合いに優れている。
⑤子宮の血流が良いので赤ちゃんの状態が良い。
⑥胎児監視(赤ちゃんの状態を調べる)が容易である。
⑦お産の介助が楽である。
などの利点があることが分かっています。
それらの利点については、次の章で解明したいと思いますが、私はその利点の中で「目と目の見つめ合い」が一番大切だと思います。
「目は心の窓」と言いますが、お産をしている途中の産婦さんの目は、不安に満ちています。もし仰臥位で上向きに寝ていたら、見えるんは通常、汚い分娩室の天井です。
私どもの病院の分娩室は、そんな汚い天井をなんとかしたいと考えた結果、手作りで天井に双子座、大犬座、小犬座、白鳥座などの星座が浮かび上がるようにしています。“星の部屋”と呼んで、少しでも産婦さんの心が休まるようにと考えられています。
また、仰臥位では、周囲にいる助産師や医師を、産婦さんは見上げることになり、逆に、私どもは、産婦さんを見下ろすような格好になるわけです。
一方、座位分娩の時は、産婦さんの目と、解除する私どもとの目は同じ高さにあります。
人間の心理として、見下げられるより、高さが同じで見つめ合うほうが、安心感が増して良いに決まっています。
それが、座位分娩の一番の利点だと言って良いでしょう。
最近、目と目とを合わせない親子が気になっています。赤ちゃんにミルクを与えながら、お母さんは、テレビばかり見ているとか、叱るとき、駄目な理由を充分説明せず、ただ大きな声で「だめでしょう」をくり返すお母さんなど。
時には「お医者さんに叱られるでしょう!」と私どもの医師を借りて叱るお母さん。
子どもと同じ高さの目線で、目止めを合わせてお話することはとっても大事です。
いつも注意深く赤ちゃんを視ているお母さんが「うちの子どもの様子がおかしいんです」と電話があったときは、急いで病院へ運んでこられるように言います。そういう時は、説明も具体的で、また、子供さんは本当に治療を必要としていることをしばしば経験しています。
その一方で、お母さんは流行の服を着て、きれいにしているけれども、子どもの福や体が汚いお母さんの場合は反対です。子どもの状態をよく把握しておらず、説明は的確ではなく、なんでもないのに慌てていたり、重い病気なのに、連れてこられるのがおそかったりすることがあります。
(4)座位分娩は自然分娩?
2本足歩行するために、頭蓋、脊柱、下肢は同一鉛直線上に並びます。
その結果、人間の骨盤の入口面は水平面に対して60度開いてバランスをとっています(骨盤傾斜角)。また2本足歩行するために腹部の諸臓器は下方、胎盤に集まってきます。そこで、諸づきを落とさない工夫として骨盤は後方に曲がって居ます。また下方に行くほど狭く出口は前方に曲がっています。このような人間の自然の形と考えると、人間は分娩の時には必然的に座位分娩となるのが理屈にあっています。
背中を45度前後起こした座位分娩は、赤ちゃんが出やすいしゃがみ姿勢に近く、骨盤入口面を水平にした、自然の理にかなった分娩だといえます。