おわりに
「初めての妊娠とお産」という題でこれまで多くの本が出版されています。
その道の大家といわれる人の執筆で、多くのことが分かりやすく書かれています。しかし、座位分娩に関する記述はあったとしても、簡単な紹介にとどまっています。
詳細はわかりませんが、数年前、私が全国の産婦人科医に対して行ったアンケート調査の結果から推測すると、日本では30%程度の産婦さんが剤でお産をされているのではないかと思われます。
私は日本で最初の座位分娩台を作成し、分娩体位懇談会など学会発表、医学雑誌への論文投稿などで在分娩を紹介してきました。
また、マタニティ雑誌やテレビ、ラジオの取材に応じて来ましたが、やはり座位分娩を体系的に妊産婦さんにわかりやすく、一冊の本にまとめる必要性をひしひしと感じておりました。
17年前から参加しているドイツの大規模医療機器医学会メディカでも、ほとんどの分娩台が背板を起こすことを想定して制作されるようになりましたが、従来の仰臥位分娩台の域を出るものではありませんでした。
2001年のメディカでは水中出産用分娩措置、いろいろな分娩体位を取れる特殊な分娩台が目に付いた程度でした。
世界的に見ても、仰臥位分娩台で背板を少し起こしての分娩が主体で、厳密な意味での座位分娩が普及しているようには思いません。
私どもの作りました座位分娩台、初代スペースメールはマザーズハンドと呼ばれる大腿受けが大変ユニークな形態をしておりましたので注目されました。
分娩台にピンク色を採用したのもおそらく日本で初めてのことだと思います。
それ以後は、どのメーカーの分娩台も大変明るい色を採用するようになり、この点でも画期的なことであったように思います。
今回改良したLDR対応座位分娩台スペースメール・ラデレでは、マザーズハンドが従来の分娩台の膝受けの形態に似ておりますが、その動きは、骨盤大腿関節の動きを解剖学的に解明し、2軸回転で動かすという従来なかった思考の結果、実現したものです。
医療の原点は、受ける患者さんが主人公であるべきですが、我々医療側は、ともすれば尊大な態度であったりするものです。
しかし、常に患者さんの利便性を一番に考え、病院づくりをする考えは、最近始まった病院評価制度にも取り入れられています。
少産時代になり、多くの産婦人科施設では、競って患者さんのアメニティを重視するようになったことは大変良いことだと思います。
しかし我々医師がわすれてはならないのは、日々行っていることはあくまでも医療だということです。
患者さんのアメニティと安全性を相反することもしばしば起こりますが、特に分娩では
母児を安全に終わらせることが重要です。
「感動的なお産」より、何もなく、母児に楽に、あっさりと済む分娩の方が児の一生の出発にふさわしいと思うこのごろです。
この本がきっかけで、一人でも多くの産婦さんが、座位分娩に魅力を感じ、座位分娩でお産したいと思っていただければ望外の喜びです。
また、この書が多くの妊婦さんに読まれるようになり、座位分娩で分娩したい方が増えれば、その声で座位分娩台を採用される施設も増えてくるでしょう。
そうなれば、座位分娩が一般的な分娩方法として認められることにつながりますので、教科書でも分娩法の第一番に座位分娩が載る日がくるのではないかと期待しています。
現在のLDR対応分娩台スペースメール・ラデレが最良であるとは考えておりませんので、これからも、少しでも多くの産婦の方に楽な分娩をしていただけるよう、改良を続けていくつもりです。
今回、執筆するにあたり、終始病院を支えスペースメールをともに制作した妻明子、編集に協力いただいた(有)アポ企画 高須賀卓氏、製造を担当した(株)モリタ製作所及び「ペリネイト母と子の病院」の職員一同に深謝いたします。
田淵 和久
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座位分娩でお産が変わる
座位分娩を理解していただくためのガイドブック
発 行 日:2002年1月1日 第1刷発行
定 価:1200円
著 者:田淵和久
発 行:有限会社アポ企画
印刷製本:株式会社デイリー印刷クリエイティブ岡山